上の前歯が出ている・下の前歯のがたつきが気になる

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「上の前歯が出ている、下の前歯のがたつきが気になる」というご相談で来院された、30代男性の症例です。

前歯の突出は、見た目の問題としてご相談いただくことが多いのですが、実際には「前歯でものが噛み切れない」という機能面の悩みが隠れていることも珍しくありません。この患者さんも、診査を進めるなかで同じ状態が確認できました。

このページでは、診断の内容、なぜ2本の抜歯を選択したのか、ワイヤー矯正ではなくマウスピース型矯正装置を選んだ理由、そして1年11ヶ月の経過を、できるだけ具体的にお伝えします。

上顎左右の抜歯を併用した
マウスピース型矯正装置(インビザライン)による治療

患者様の主訴

「上の前歯が出ている、下の前歯のがたつきが気になる」

初診時、患者さんご自身が気にされていたのは主に2点でした。上の前歯が前方に出ていること。そして下の前歯が重なり合い、でこぼこしていることです。

お話を伺うなかで、前歯でものを噛み切りにくいという自覚もあることがわかりました。見た目の改善だけでなく、噛み合わせも含めて整えたいというご希望をお持ちでした。

001

初診時の状態と診断

診査で確認された所見

口腔内診査と精密検査の結果、上顎の歯列弓(歯が並んでいるアーチ)が狭く、歯が並ぶためのスペースが足りていない状態が確認されました。スペースが不足した結果として、上の前歯が前方に押し出される形になっていました。

下顎では前歯部に叢生(そうせい)が見られました。叢生とは、あごの大きさに対して歯が並びきらず、重なったりねじれたりして生えている状態のことです。一般には「歯並びのがたつき」「乱ぐい歯」と呼ばれます。

上顎歯列弓狭窄、歯槽性上顎前突、および叢生

専門的な表現なので、噛みくだいて説明します。

「上顎歯列弓狭窄」は、上のあごの歯列アーチが横方向に狭いこと。「歯槽性上顎前突」は、あごの骨そのものの位置や大きさの問題(骨格性)ではなく、歯の傾きや位置によって前歯が突出している状態を指します。

この区別は治療方針を決めるうえで重要です。骨格に起因する前突であれば外科的な処置を検討する場合もありますが、本症例は歯の位置に由来するものと診断できたため、歯を動かす矯正治療で対応が可能と判断しました。

このまま放置した場合に想定されたリスク

診断時点で、次のような影響が起こりうる状態でした。

前歯でものを噛み切ることが難しく、その負担が奥歯に集中する

歯が重なっている部分は歯ブラシが届きにくく、虫歯のリスクが高まる

前突した前歯や叢生部分の歯茎に、清掃不良や力の負担がかかりやすい

口元の見た目に関するご本人の悩みが続く

矯正治療は「見た目を整える治療」と受け取られがちですが、臨床の現場では、清掃性と噛み合わせの改善を目的として計画を組むことのほうが多いと感じています。

治療計画とその理由

なぜ上顎の抜歯を選択したのか

治療計画を立てる際、まず検討したのは抜歯をせずに歯列のアーチを広げる(拡大する)方法でした。

しかし本症例では、アーチの拡大だけでは前歯の突出感が十分に改善しないと判断しました。前歯が前に出ているぶん、それを後方へ下げるためのスペースが必要になるためです。

そこで、上顎左右の第一小臼歯(前から4番目の歯)2本を抜歯し、そこで得られたスペースを使って前歯を後方へ移動させる計画としました。

抜歯は、患者さんにとって心理的な負担の大きい選択です。だからこそ、抜かずに済む方法を先に検討したうえで、「なぜこの症例では必要なのか」をご説明し、ご納得いただいてから進めています。

002

ワイヤー矯正ではなくマウスピース型矯正装置を選んだ理由

本症例では、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正装置(インビザライン)の両方が選択肢として成立しました。実際、どちらが適しているか検討を重ねています。

最終的にマウスピース型矯正装置を選んだ判断材料は次のとおりです。

①取り外して歯磨きができること

装置を外して普段どおりに歯を磨けるため、治療中の虫歯リスクを抑えやすくなります。もともと叢生による清掃性の低下が課題だった症例のため、この点を重く見ました。

②装置が目立ちにくいこと

30代でお仕事をされている患者さんのご希望として、審美面への配慮がありました。

③計画をシミュレーションで共有できること

どの歯をどの順序でどこまで動かすのかを、治療開始前に画面上でご確認いただけます。抜歯を含む計画では、ご本人が見通しを持てることが継続の支えになります。

ワイヤー矯正が劣るという話ではありません。適応や患者さんの生活スタイルによって、ワイヤーのほうが適する症例もあります。本症例については、審美面・清掃性・治療計画の共有しやすさを総合的に考えて、マウスピース型矯正装置を選択しました。

治療の流れ

01

精密検査・治療計画の立案

レントゲン撮影、口腔内写真、歯型の採得を行い、歯の傾きや骨の状態、噛み合わせを確認しました。その結果をもとに治療計画を作成し、抜歯の必要性を含めてご説明したうえで治療を開始しています。

02

上顎左右第一小臼歯の抜歯
(計2本)

前歯を後方へ移動させるためのスペースを確保するため、上顎の左右4番目の歯を抜歯しました。

03

マウスピースの装着開始
(1〜2週ごとに交換)

治療用のマウスピースを1日20時間以上装着していただき、1〜2週ごとに次のマウスピースへ交換します。交換のたびにわずかずつ歯が動いていく仕組みです。

04

1〜2ヶ月ごとの経過チェック

来院時に、計画どおりに歯が動いているか、マウスピースがしっかり適合しているかを確認します。装着時間が不足していると計画が遅れるため、この確認は毎回欠かしません。

05

追加スキャンと追加マウスピースによる調整(2週ごとに交換)

一定まで歯が動いた段階で、現状を再度スキャンし、そこから仕上げるための追加マウスピースを製作しました。ここで細部の噛み合わせを詰めていきます。

06

保定(リテーナー装着)へ移行

歯並びが整った段階で装置を終了し、後戻りを防ぐための保定装置(リテーナー)へ移行しました。

治療前後の比較

治療前

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治療後

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前後の写真を見比べて

治療前の上顎咬合面を見ると、歯列のアーチが横方向に狭く、前歯が前方へ押し出される形になっているのがわかります。下顎前歯部には重なりがあり、清掃しにくい部位が複数ありました。

治療後は、上下ともアーチが広がり、歯列の形が整っています。前歯の突出感も落ち着きました。

機能面では、治療前は難しかった「前歯で噛む」という動きができるようになりました。 見た目の変化に目が向きやすい症例ですが、担当医として意味が大きいと考えているのはこちらの変化です。前歯が本来の役割を果たせるようになると、奥歯に集中していた負担も分散されていきます。

本症例で工夫した点

上下の歯の本数が異なることを踏まえたバランス設計

本症例で最も慎重に検討したのは、上顎だけを2本抜歯したことによる上下のバランスです。

上の歯を2本抜いてスペースを作り、前歯を後方へ下げると、上の前歯はきれいに収まります。ただし下顎は抜歯していないため、上下の歯の本数が異なる状態になります。この条件のまま単純に上の前歯を下げていくと、今度は相対的に下あごが前に出て見える噛み合わせになりかねません。

そこで、上の前歯をどこまで下げるか、下の歯列をどの位置で受け止めるかを、シミュレーションの段階から細かく設定しました。「前歯を下げる」ことだけを目的にせず、上下が最終的にどう噛み合うかを起点に移動量を決めるという考え方です。

途中で生じた噛み合わせのずれへの対応

治療の経過中、一時的に前歯だけが強く当たり、奥歯が噛みにくくなる時期がありました。 歯を大きく移動させる過程では起こりうる状態です。

この段階で経過を見送るのではなく、追加のマウスピースを製作し、奥歯がしっかり噛める状態へ戻していく調整を行いました。矯正治療は当初の計画どおりに進むことばかりではなく、途中の所見に応じて設計を組み直す判断が必要になります。1〜2ヶ月ごとの来院で状態を確認していたことが、この対応につながりました。

患者さんの反応

治療を終えられたあと、「歯並びも咬み合わせも改善してよかった」とお話しいただきました。

歯並びだけでなく噛み合わせにも言及していただけたことは、担当医として印象に残っています。

保定・メンテナンスについて

矯正治療は、装置が外れて終わりではありません。歯は元の位置へ戻ろうとする性質があるため、保定装置(リテーナー)の装着が治療の一部になります。

本症例では、次のスケジュールで保定を進めています。

時期
リテーナーの装着時間
矯正終了〜6ヶ月
1日中
その後3〜4ヶ月
1日15時間程度
以降
就寝時のみ

あわせて、3ヶ月ごとに経過観察のためご来院いただいています。この期間は歯並びの安定を確認するだけでなく、虫歯や歯周病のチェック、クリーニングを行う機会にもなります。

保定の進め方は、動かした量や後戻りのしやすさによって個人差があります。上記はあくまで本症例でのスケジュールです。

本症例の治療情報

項目
内容
治療時期
2024年9月〜(治療期間 1年11ヶ月)
患者さんの年代・性別
30代・男性
主訴
上の前歯が出ている、下の前歯のがたつきが気になる
診断名
上顎歯列弓狭窄にともなう歯槽性上顎前突、叢生
治療内容
マウスピース型矯正装置(インビザライン)による矯正治療、上顎左右第一小臼歯 抜歯2本、ワイヤー装置は不使用
治療期間・通院回数
通院回数 1年11ヶ月・通院は月1回程度
治療費(税込)
¥1,001,000
保険適用の有無
自由診療(保険適用外)
主なリスク・副作用
後戻り/歯肉退縮(歯茎が下がること)/歯根吸収(歯の根が短くなること)/
マウスピースの装着時間が不足した場合の治療計画の遅延/治療中の一時的な痛みや違和感

※本ページで紹介している治療結果は、この患者さんの経過です。治療結果には個人差があり、すべての方に同様の経過をお約束するものではありません。 ※治療内容・期間・費用は、お口の状態によって一人ひとり異なります。詳しくは検査・診断のうえでご説明いたします。

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